人に認められたい、という強い欲求は、我々の行動や思考に大きな影響を与えます。
しかし、この欲求が過剰になり、「優越コンプレックス」と呼ばれる問題が生じることがあります。逆に、自分に自信が持てずに「劣等コンプレックス」に陥ることもあります。
アドラー心理学では、このようなコンプレックスが生じる原因や特徴について探究しています。
本記事では、優越・劣等コンプレックスの特徴や、それらを克服するための方法を解説します。自分自身や周囲の人々との関係をより健全にし、より充実した人生を送るために、ぜひご一読ください。
自慢もコンプレックスの裏返し?
「嫌われる勇気」で有名なアドラー
アルフレッド・アドラーとは
2017年1月12日から3月16日まで毎週木曜にフジテレビ系のドラマ「嫌われる勇気」でも起用されるくらい人気の著書、「嫌われる勇気」で有名な心理学者アルフレッド・アドラー。
他人を気にしない「承認欲求」を否定する生き方をすすめています。
まずはアドラーの生い立ちからみていきましょう。
アルフレッド・アドラーの生い立ち
アルフレッド・アドラーは、1870年2月7日にオーストリア ウィーンの郊外ルドルフスハイム生まれ。
彼が育った家庭は、ユダヤ人の中産階級に属していました。
ハンガリー系ユダヤ人の父親は穀物商を営み、チェコスロヴァキア系ユダヤ人の母親は夫の仕事を手伝う勤勉な主婦でした。
アドラーは6人兄弟の次男で、2歳上の兄がいました。
彼は大家族の中で育ったことが、自身のパーソナリティの成長と、後に独自の理論を発展させる基盤になったことを認めています。
アドラーは、幼少期に声帯のけいれんと、くる病を患い、3歳下の弟が生後1年でジフテリアで亡くなるという辛い体験をしました。
さらに4歳頃には肺炎にかかって危うく死にかけたことがあり、これが医師を志すきっかけとなりました。
1888年にウィーン大学の医学部へ入学後、眼科医や内科の診療所を始めました。
彼はフロイト博士やユング博士と並ぶ、精神医学・心理学界の巨人の1人であり、アドラー心理学(個人心理学)の創始者です。
1937年5月28日、アドラーの死後も、その教えは多くの人たちに引き継がれています。
アドラー心理学 5つの理論
アドラー心理学の「5つの理論」とは、自己決定性・目的論・全体論・認知論・対人間関係論という5つの基本理論に基づいています。
- 自己決定性:自己責任で自己決定する
- 目的論:人の行動には必ず目的がある
- 全体論:心も身体も結びついた存在であり、自己変革が可能
- 認知論:人は客観視できず、主観的に物事をみてしまう
- 対人間関係論:人の行動や感情は常に特定の誰かに向けられ、互いに影響し合う
劣等感コンプレックス
劣等感がどのように形成されるのかを探ります。幼少期や家庭環境、社会的比較などが劣等感の原因になることがあります。
劣等感のルーツ
劣等感のルーツは、個人の人生経験、社会的状況、文化的背景など、多くの要因が絡み合って形成されます。
以下に、劣等感のルーツとして考えられる主な要因をいくつか挙げてみます。
- 経験したトラウマやネガティブな経験
過去に体験した嫌な出来事や、否定的な体験によって、自尊心が傷ついたり、自己評価が低下したりすることがあります。 - 環境的要因
家族、友人、同僚、メディアなど、周りの人々と比較されるときに特に強く感じられることがあります。また、社会的な権力や地位、所得など、他の人と比較される場合にも、劣等感を感じることがあります。 - 文化的要因
文化的な価値観や規範によっても引き起こされることがあります。例えば、美しさや富、成功などが高く評価される社会では、これらの要素に欠ける人々は劣等感を感じやすい傾向があります。
劣等感コンプレックスとは
劣等コンプレックスは、他人よりも自分が劣っているという考え方によって形成されます。
以下は、劣等コンプレックスの原因となる要素の一部です。
- 容姿の美醜
- 能力の高低
- 収入や財産の大小
- 社会的地位や名誉の有無
- 自己評価に関わるあらゆる事象
劣等コンプレックスを克服するための心理メカニズムがあります。
それが、努力や代替行為(方向転換など)です。努力や代替行為のことを「補償」といいます。
多くの場合、補償によって、劣等感コンプレックスはやわらぎます。
ただし、自意識過剰や過度の承認欲求が起こると、劣等コンプレックスの影響が強まってしまう危険性があります。
どうしても人と比べてしまうの
優越コンプレックスとは
優越感のルーツ
優越感のルーツは、個人の人生経験、社会的状況、文化的背景など、多くの要因が絡み合って形成されます。
以下に、優越感のルーツとして考えられる主な要因をいくつか挙げてみます。
- 能力の高さや物質的な豊かさによる自己評価の高さ
自分が持っている能力が高く、物質的にも豊かであるという自己評価によって、優越感が生まれます。例えば、高い収入や成功した経歴、優れたスポーツ選手や芸術家などの才能がある場合などが該当します。 - 成績や外見が他人よりも優れているという自覚
自己評価が高く、他人よりも優れているという自覚がある場合に、優越感が生じます。例えば、学業成績や職務遂行能力が高い、外見が良い、社交的なスキルに優れている、などが該当します。 - 環境や周囲の人々と比較した場合に、自分が上位であると感じることによって生じる。
自分が属する環境や周囲の人々と比較した場合に、自分が上位であると感じることによって、優越感が生じます。例えば、所属するグループ内での地位が高い、他人よりも優れた経歴や収入がある、などが該当します。 - 親や教育機関、社会などからの肯定的な評価や承認
親や教育機関、社会からの肯定的な評価や承認を受けることによって、優越感が生じます。例えば、学業成績が良かったり、スポーツや芸術などで賞を受賞したり、社会的地位が高い職業に就いたりすることが該当します。
優越コンプレックスとは
優越コンプレックスは劣等感を補うために優越感を示すことで、自尊心を保とうとする心理的メカニズムです。
劣等感を抱える人が、その劣等感に対処するために、自分が他人よりも優れた人間であるかのように見せかける態度を取ることを指します。
自慢もコンプレックスの裏返し
劣等コンプレックスの強い人は、優越感を求めることがあり、自己顕示欲や虚栄心に満ちた態度をとることが多いとされています。
優越コンプレックスを持つ人の特徴
- 劣等感を抱えている
- わたしってこんなにスゴイの!アピールをする
- 他の人を軽蔑し、時には侮辱することがある
- 他人を褒めない
- 会話中、すべて自分の話題にもっていく
- 手柄を自慢する
- 高価なブランド品を見せびらかしたりする
- 勝利を得ることに執着
優越コンプレックスにより「権威づけ」がおこなわれます
優越コンプレックスがもたらす影響
優越コンプレックスを持つことは、人間関係や自己評価、心理的な健康に影響を及ぼす可能性があります。以下は、優越コンプレックスがもたらす可能性のある影響の例です。
- 自己評価の歪み
優越コンプレックスを持つ人は、自分自身や自分のグループを他の人やグループよりも優れていると信じるため、自己評価が歪む可能性があります。また、自己評価が高すぎることが原因で、自分自身を過剰に評価してしまう場合もあります。 - 組織内での問題
優越コンプレックスを持つ人が組織内で上司や同僚と対立した場合、互いの信頼関係が崩れ、コミュニケーションの妨げとなります。また、優越コンプレックスを持つ人がリーダーとして活動している場合、従業員に対する扱いが偏ったり、組織内のモラルを下げる原因になる可能性があります。 - 学習や成長の障害
優越コンプレックスを持つ人は、自分自身や自分のグループが他の人やグループよりも優れていると信じているため、新しいことを学ぶことを拒否する場合があります。また、過度の自己評価があるため、自己改善や成長をすることを拒否する可能性もあります。 - 心理的問題
優越コンプレックスを持つ人は、他の人を軽蔑することがあるため、孤立感を抱く場合があります。また、過剰な自己評価があるため、自尊心を維持するために他の人に対して攻撃的になる場合があります。このような問題が続くと、うつ病や不安障害などの心理的問題を引き起こす可能性があります。
コンプレックスを克服する方法
劣等感を克服するためのアドラー心理学的なアプローチについて解説します。
自分の存在意義を見出すことや、他人との比較から自分自身を切り離すことが大切です。
自己肯定感を高め、より豊かで充実した人生を送るためのヒントを提供します。
過去ではなく未来にフォーカスする
劣等感を克服するためには、過去の失敗や嫌な経験にとらわれるのではなく、自分がどうなりたいか、どういう人間になりたいかにフォーカスすることが重要です。
自分が望む未来を想像し、その未来に向かって努力を続けることが大切です。
自分は不完全だと認める
完璧を求めすぎることが劣等感の原因となるため、自分自身が不完全であることを認めることが重要です。
アドラーの名言
私たちはみな間違える。
大切なのは、間違いは修正できるということだ。
自分には弱点や欠点があるということを受け入れ、それを克服するために努力することが必要です。
自分と物事を分ける
自分自身と自分がやったことを分けて考えることが大切です。
自分自身が劣っていると思い込むのではなく、自分がやったことに対しての評価をすることが重要です。
自分が失敗したからといって、自分自身がダメな人間であるわけではありません。
人に貢献する
人に貢献することで、劣等感や優越感をなくすことができます。
劣等感を持っている人は、自分自身に自信がなく、他人と比較して自分が劣っていると感じています。しかし、自分が他人に役立つことで、自分自身の価値を感じ、自己肯定感が向上します。
優越感を持っている人は、他人よりも優れていると感じているため、自分の価値を認められたいと思っています。人に貢献することで、他人からの認められることができ、自分自身が成長することもできるため、優越感を減らすことができます。
自分ができることや得意なことを活かして、周りの人々や社会に貢献することが大切です。
アドラー自身による、アドラー心理学入門書
優等コンプレックス・劣等コンプレックスが学べる本です。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。