内臓脂肪は万病のもと

本記事のテーマは内臓脂肪が増えると病気のリスクが増えるというお話です。

蓄積すると体に異常を引き起こし、さまざまな病気の原因へとつながっていきます。見た目には太って見えない“隠れ肥満”の方も要注意です。

この記事では内臓脂肪って何?どこにつくの?のなど基礎からまとめました。

では本題に入っていきましょう!

内臓脂肪って何?

内臓脂肪は内臓の「どこ」につく

おなかにたっぷり脂肪がつくと、両手でがしっとつかむことができます。10㎝から20㎝、いやもっとあるかというほど分厚くて、動かすと重そうに揺れます。このおなかの脂肪、正式には内臓脂肪といいます。確かにおなかの奥には内臓がありますが、内臓と脂肪にどんな関係があるのでしょうか。そうそう、皮下脂肪とか体脂肪というのも聞きますね。内臓脂肪と皮下脂肪と体脂肪、この三つはどう違い、それぞれどこにつくのでしょうか。

内臓脂肪はとくに男性に多い脂肪で、おなかを中心に胸や肩など上半身にたっぷりつきます。男性は少しおなかが出ている方が着物が似合うというように、男性らしい貫禄とか、落ち着きを感じさせるのがこの脂肪です。

これに対し皮下脂肪は、おもに女性の腰から太ももにかけてつきます。縄文時代の土偶に象徴されるように、女性らしい柔らかなシルエットのもとになっています。皮下脂肪も指でギュッとつまむことができますが、おなかの脂肪はそれほどは厚くありません。医学分野では、内臓脂肪と皮下脂肪が作る体のラインをリンゴと洋ナシに例えて、内臓脂肪による肥満を「リンゴ型肥満」、皮下脂肪主体の肥満を「洋ナシ型肥満」と呼ぶことがあります。

男性にも皮下脂肪はつきますし、女性も閉経を迎えると内臓脂肪が増えてきます。

自分がリンゴ型かナシ型か気になる人はウエストのサイズをヒップのサイズで割ってみてください。この数値が男性で1.0以上、女性で0.8以上なら、おそらくリンゴ型肥満で内臓脂肪がついています。

三つ目の体脂肪は、内臓脂肪と皮下脂肪を合わせた脂肪全体を指す言葉です。つまり通常の体脂肪計は、内臓脂肪と皮下脂肪を区別せずに、体の中で脂肪が占める割合をみていることになります。

さて、内臓脂肪はおなかのどこに付くのでしょうか。体を縦に切ってみてみましょう。

おなかの皮膚のすぐ下に皮下脂肪があって、その下に腹筋があり、そのもっと奥、内臓を覆うように内臓脂肪がたまります。

おなかの中は大きな空洞になっていて、空洞の壁から腸間膜という複雑に重なったカーテンのような膜がおりています。腸間膜は小腸や大腸を包むようにつないで、おなかの中で内臓を吊り下げる働きをしています。そして、この膜の中を血管、神経、リンパ管が放射状に走り、内臓に酸素と栄養を運んでいます。内臓脂肪はこの腸間膜に付くのです。

内臓脂肪が増えるにつれて腸間膜は厚みを増し、肝臓や膵臓のまわり、太い血管の周囲、内臓と内臓のすきまが徐々に脂肪で埋まっていきます。こうして、おなかの中のいたるところに脂肪がぎっしりつくと立派な太鼓腹ができあがります。

脂肪は何のためにあるか

脂肪がなければ人は生きていけません。脂肪は体内で大切な役割を果たしています。まず、脂肪はすべて、食べ物がなくなったときに備えたエネルギーの貯蔵庫です。

脂肪の役割はエネルギーの貯蔵だけではありません。脂肪そのものが、人が生きていくうえで重要な仕事をしています。全身のあらゆる細胞を一つ一つ包む膜の成分であるとともに、脂肪の消化を助ける胆汁や、生体活動を調節するホルモン、たとえば副腎皮質ホルモンならびに男性女性それぞれの性ホルモン、されには血圧、血液の凝固、免疫機能などの調節をになう物質の原料でもあります。また、油に溶ける性質を持つビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなどの吸収を助け、ビタミンDを体内で合成するのにも必要です。

ビタミンDは腸でのカルシウムの吸収を促して、骨に入ったカルシウムを逃がさないようにすることで骨を強くしています。そのため実際に骨粗鬆症の治療に使われていますが、骨粗鬆症を予防するためなら適度に日光を浴びれば十分でしょう。なんと、皮下脂肪には紫外線によってビタミンDに代わる物質が含まれており、日光浴をするだけでビタミンDを合成できるのです。ただし、これだけでは十分とはいかないので、魚やキノコなどの食品からビタミンDの摂取を心掛けることも大切です。

このほかに、皮下脂肪は全身を広くおおうことで、からだを寒さから守って体温を一定に維持したり、からだへの衝撃をやわらげたりする働きがあります。

これに対して内臓脂肪は、内臓をあるべき場所に固定し、クッションとなって内臓を守っています。

おなかは巨大な空洞で、そのなかに胃、腸、肝臓などたくさんの臓器が存在します。しかし、人は動物と違って直立しているため、重力によって臓器がずり落ちるおそれがあります。それを防ぐためにそれぞれの臓器は腸間膜をはじめとする膜と、じん帯でゆるやかに固定され、そのすきまを内臓脂肪が埋めることで、あまり動かないようになっているのです。

臓器の固定が不十分だと胃下垂や、腸の一部が下がる腸下垂をはじめとする内臓下垂が起こります。高齢者や痩せ型の女性など内臓脂肪が少ない人に多くみられ、胃下垂で胃が骨盤にすっぽりはまり込んだかと思えば、腎臓が10㎝も下がるなど、内臓の位置が大きく変わってしまいます。これでは、それぞれの臓器が本来の機能を十分果たせないだけでなく、骨盤の中で腸が圧迫されて便秘になったり、子宮と卵巣が圧迫されて生理不順が起きたり、排尿に問題が生じたりすることもあります。

付きすぎた脂肪が病気を招く

皮下脂肪と内臓脂肪、男女別平均点はどのくらい?

脂肪がつくのは決して悪いことではありません。脂肪は体の機能と健康を支えており、人生をのびのびと楽しむことができるのも脂肪が本来の役割を存分に果たせばこそです。問題はついている脂肪の量です。

では、ここで皮下脂肪と内臓脂肪の平均点を男女別にみていきましょう。

皮下脂肪は全身の皮膚の下に付くといっても、つきやすい場所とつきにくい場所があります。洋ナシ型肥満のところでみたように、とくにつきやすいのが腰と太ももです。順に腰と太もも、胸、肩と二の腕、前腕とふくらはぎ、手首足首となっていて、からだの中心から離れるにつれて少なくなります。

大人の平均は、二の腕の後ろであれば、男性が0.6~0.8㎝で、女性が1.2~1.5㎝くらい。片手の親指と人差し指で皮下脂肪をきゅっとつまみ、もう一方の手で物差しを当てればだいたいわかります。

皮下脂肪を減らそうとしてダイエットをすると、脂肪がつきにくい手首足首、前腕とふくらはぎの順にやせていき、最後に腰と太ももの脂肪が落ちます。そのため、たとえば二の腕の皮下脂肪を集中的に、というように都合よく落とすことはできません。

内臓脂肪が全身に影響を及ぼす理由

食べ過ぎや運動不足によって、からだに脂肪が付き始めると何が起こるでしょうか。

皮下脂肪と内臓脂肪は、血液中の中性脂肪を次々に取り込む点は同じでも、たっぷり吸収して、もうこれ以上無理!となってからの反応が違います。皮下脂肪は細胞分裂して数が増えます。そのため、皮下脂肪型肥満の人は、もともと3000億個だった脂肪細胞が400~600億個にもなるとなるといわれています。一度増えた脂肪細胞の数が減ることは基本的にはありません。全身の脂肪細胞の数は20歳ころまで増え続け、これを過ぎるとほぼ一定になることがわかりました。

内臓脂肪が増えると脂肪肝の原因に

内臓脂肪の細胞は大きくなると悪玉菌を分泌する力が高まります。それと同時に善玉菌をあまり作らなくなるために、脂質、血圧、血糖の数値は悪化するばかり。こうなると手がつけられません。内臓脂肪が危険なのは、つく場所の問題もあります。内臓をつり下げている腸間膜は薄い膜を2枚重ねた構造になっていて、2枚のあいだを血管が走り、内臓に酸素や栄養を届けたり、内臓で吸収した栄養を肝臓に運んだりしています。内臓脂肪がたくさん付いていると、中性脂肪が必要以上に分解され、大量の脂肪酸が作られます。脂肪酸はそのまま肝臓に入り、溜まってしまって脂肪肝の原因になります。

メタボリックシンドロームの正体

この先にあるのがメタボリックシンドロームです。別名「内臓脂肪症候群」。メタボリックシンドロームの何が怖いかというと、自覚症状がないことです。おなかが痛いとかかゆいとか、頭がふらふらすることがないと、病院に駆け込むこともありません。メタボリックシンドロームの基準を満たす項目が増えるにつれて、心臓病や脳卒中の危険が高まります。

心臓病になる

内臓脂肪がおなかで増えるとどうして心臓病になるのでしょうか。答えはずばり、動脈硬化です。動脈硬化こそがメタボリックシンドロームの正体なのです。動脈硬化の原因は悪玉コレステロール値が上がることだと思っている人が多いですが、悪玉コレステロールが増えるだけでは動脈硬化はそれほど進みません。おもに内臓脂肪が分泌する悪玉物質が、悪玉コレステロールを血管の壁にしみこみやすくして動脈硬化を進行させているのです。また、内臓脂肪が中性脂肪を取りこんで大きくなると善玉物質の分泌が減り、これによっても動脈硬化がすすみます。

動脈硬化になると血管の壁が厚くなり、そこに血の固まりがくっつくことで血液の通り道がせまくなります。こうして、ついに血管がつまると、その先の組織に酸素や栄養を送ることができなくなって、組織が死んでしまいます。これが心臓の動脈で起きたのが心筋梗塞、脳を流れる動脈で起きたのが脳梗塞です。内臓脂肪の蓄積をきっかけに、体にとって望ましくない反応がドミノ倒しのように広がることで、心筋梗塞が起こりやすくなるのです。

内臓脂肪で糖尿病になる

高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病はすべて内臓脂肪の蓄積からスタートして、動脈硬化という共通のゴールに向かって進みます。

認知症になる

高い濃度のインスリンと、脳の血管に起きた動脈硬化が大きな原因になります。認知症の背景にもおなかの脂肪があるのです。実際に、アルツハイマー型認知症の患者さんの60%が、内臓脂肪の面積が基準を多く超えています。米国では、中年期に肥満の人は、認知症の発症率が3倍高くなると報告されています。これが肥満だけでなく血圧、脂質も基準を超えたメタボリックシンドロームとなると、危険がもっと大きくなります。メタボな人は認知症の発症率が6倍以上高くなり、しかもこういう人が認知症を発症すると、認知機能の低下が速く進むこともわかりました。

なぜ、おなかの脂肪が脳の神経細胞に影響を及ぼすのでしょうか。神経細胞を破壊するアミロイドβというたんぱく質があります。動物実験などのよると、内臓脂肪から分泌される悪玉物質がアミロイドβを脳に蓄積させるようです。また、インスリンにはアミロイドβを分解して神経細胞を守る作用がありますが、内臓脂肪がたまるとインスリンの効き目が悪くなり、神経細胞を保護できなくなってしまうのです。そのほかに、血糖値が上がると、ブドウ糖が脳の血管と神経細胞の働きを低下させることも指摘されています。

便秘になる

内臓脂肪が付きすぎて、臓器と臓器のすきまを固く埋めてしまうと、腸が自由に動くことができません。食べ物を消化しながら出口に向かって送り出す機能がさまたげられるため、便秘になったり、無理に食べ物を押し込むことでおなかを壊したりしがちです。

突き出たおなかで腰痛に

腰痛の原因は仕事や加齢、生活習慣など様々ですが、内臓の蓄積も見逃すことはできません。内臓脂肪がたまると、おなかがせり出します。重いおなかのバランスを取るために体が後ろに反り返り、背骨の腰の部分が前に突き出します。すこし猫背になる傾向もみられます。この状態が続くと、背中の筋肉がつねに緊張し、コリや張りを感じるようになります。腰痛があることで、あまり体を動かさなくなって、さらに肥満が進み、腰痛が悪化するという悪循環に陥る人が目立ちます。

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